
とても静かな森があります。
風の音も 小鳥の声も 水のしずくも
どれも とてもやわらかくて
気づかなければ 聞き逃してしまうような森です。
この森に来るとき 人はあまり急ぎません。
何かを決めてやってくる人も そうでない人も
森に入ると なぜかゆっくり歩きたくなるのです。
森の木は高くて 葉は広がって
すこしうす暗く けれど息がしやすい場所。
足もとはふかふかで 靴の音もしません。
昼なのか 夕方なのか 夜のすこし手前なのか。
それもよくわからないまま
気がつくと 道のようなものが現れて
誰かが置いていったかのような石が ぽつん、ぽつんと続いていたりします。
この森には、お店があります。
それも たったひとつではありません。
でも 地図はありません。
看板も 入口も はっきりとは見えないことがあります。
ある店は 雨がふるとあらわれ
ある店は 葉っぱの影からしか入れず
ある店は 風が通らなければ 扉が開かない。
けれど 不思議なことに 必要なときには
たしかに見つかるのです。
最初に出会うお店は 人によってちがいます。
ふと 森の奥で時計の音が聞こえたら
そこには「とけい屋」があります。
月明かりに誘われて歩いていたら
その先には「月のカフェ」が 灯っているかもしれません。
くすりびんが並ぶ「よるのくすり箱」
誰のものか分からない手紙を預かる「木の根の郵便局」
一晩のあいだにしか開かない ふしぎなお店たち。
この森では なにかを買わなくてもかまいません。
ただそこに立ち寄ったり
誰かの話を聞いたり
店の奥から漂ってくるにおいに 少しだけ立ち止まったり。
そういうことが どこかに
静かに残っていることがあります。
この森の入り口は 決まった場所にあるわけではありません。
でも だれにでも開いている扉があります。
たとえば
よく眠れなかった夜のすきま。
あさとよるのあいだにある ほんのすこしの沈黙。
あるいは 急に思い出した 名前のない気持ち。
そういうとき ふと この森の気配が近づいてきます。
道は一本ではありません。
曲がり角がいくつもあって
ある日は通れた道が 別の日には見つからなかったりもします。
しずかな森は いつも誰かの歩みを待っています。
誰かが通るたび 木々の奥で どこかの扉がまた ひとつ
そっと開くのです。

とても静かな森があります。
風の音も 小鳥の声も 水のしずくも
どれも とてもやわらかくて
気づかなければ
聞き逃してしまうような森です。
この森に来るとき
人はあまり急ぎません。
何かを決めてやってくる人も
そうでない人も
森に入ると
なぜかゆっくり歩きたくなるのです。
森の木は高くて 葉は広がって
すこしうす暗く けれど息がしやすい場所。
足もとはふかふかで 靴の音もしません。
昼なのか 夕方なのか
夜のすこし手前なのか。
それもよくわからないまま
気がつくと 道のようなものが現れて
誰かが置いていったかのような石が
ぽつん、ぽつんと続いていたりします。
この森には、お店があります。
それも たったひとつではありません。
でも 地図はありません。
看板も 入口も
はっきりとは見えないことがあります。
ある店は 雨がふるとあらわれ
ある店は 葉っぱの影からしか入れず
ある店は 風が通らなければ 扉が開かない。
けれど 不思議なことに
必要なときには
たしかに見つかるのです。
最初に出会うお店は
人によってちがいます。
ふと 森の奥で時計の音が聞こえたら
そこには「とけい屋」があります。
月明かりに誘われて歩いていたら
その先には「月のカフェ」が
灯っているかもしれません。
くすりびんが並ぶ「よるのくすり箱」
誰のものか分からない手紙を預かる「木の根の郵便局」
一晩のあいだにしか開かない
ふしぎなお店たち。
この森では
なにかを買わなくてもかまいません。
ただそこに立ち寄ったり
誰かの話を聞いたり
店の奥から漂ってくるにおいに
少しだけ立ち止まったり。
そういうことが どこかに
静かに残っていることがあります。
この森の入り口は
決まった場所にあるわけではありません。
でも だれにでも開いている扉があります。
たとえば
よく眠れなかった夜のすきま。
あさとよるのあいだにある
ほんのすこしの沈黙。
あるいは
急に思い出した 名前のない気持ち。
そういうとき
ふと この森の気配が近づいてきます。
道は一本ではありません。
曲がり角がいくつもあって
ある日は通れた道が
別の日には見つからなかったりもします。
しずかな森は
いつも誰かの歩みを待っています。
誰かが通るたび
木々の奥で どこかの扉がまた ひとつ
そっと開くのです。