まよなかの植物園

しずかな しずかな まよなかです。
まちの みんなが 眠っているころ
ひとつの 大きな まどが
そっと ひらきました。
そこは いつもは かぎのかかった 植物園。
でも 夜になると
とくべつな とびらが あらわれるのです。

「おかえりなさい」
「きょうも おつかれさまでした」

だれかの 声のような やさしい風が
あなたを 植物園の なかへと みちびきます。

ふみしめた みちは
しっとりと やわらかく
ほこりのような やみが
すこしずつ あしもとに しずんでいきます。
そのたびに 植物たちは
そっと 目をひらいて
あなたを みつめます。

ぱちり

とげのある サボテンが くしゃみをして
つんとした みどりの においが ひろがります。
するすると からだを のばす つるのくさ
あかりのように ぽつぽつ ひかる 花の つぼみたち
眠っていた 植物園が
すこしずつ めざめていくのです。

この 植物園に あるのは
にちじょうの 植物とは ちがうものばかり。
たとえば
おとの花。
ひらくと やわらかい ピアノのような 声で
「おやすみなさい」と ささやきます。
においの木は
きょうの あなたの きもちに あわせて
すきな においに かわります。
あたらしい せっけんのにおい
ぬれた ほんの におい
こどものころの まくらの におい
それは どれも
あなたの なかの とても ふるい 記憶です。

ひかりの つぶを まいてあるくのは
ナイトペッパーという 草の なかまたち。
こそこそ はなしながら
だれかの かたすみに ひかりを さしこみます。

「このひとは さみしかったんだよ」
「でも まだ きづいてないだけ」
「きづいたとき わたしたちが そこにいられるように」

ナイトペッパーたちは とても しんせつで
とても ひつような 植物です。

ふと たちどまると
やわらかい しろい ひかりに てらされた いっぽんの 木。
ゆめつなぎの木と よばれる とても とても ふるい 植物です。
この 木は だれかの みた ゆめを
すこしだけ のこしてくれます。

「きょうの あなたは
うみのそばの ながいベンチで やすんでいました」
「きょうの あなたは
ひかりのトンネルを ぬけたさきで だれかに 手をふっていました」

そんなふうに
ゆめつなぎの木は やさしく ゆめのかけらを とどけてくれるのです。
そして そのたびに
あなたの こころの ふかいところで
なにかが そっと ほどけていきます。

植物園の いちばん おくにある
小さな いすに すわると
うえから 音のように ひかりのはなびらが おちてきます。
なにかを きれいに あらいながしてくれるような
ふしぎな ひととき。
きっと あなたも しらないうちに
いくつかの なみだが ここに おちているかもしれません。
でも だいじょうぶ。
この植物園は
なくなった なみだの かずだけ
しずかに やさしく 花を さかせるのです。

やがて しずかに あさの きざしが やってきます。
植物たちは すこしずつ
また ねむりのなかへ もどっていきます。

「また きてね」
「こんやも ちゃんと ねむれますように」

そんな 声のような かぜが
あなたの まどを とおりすぎていきます。
ひかりが すこしずつ にじむころ
植物たちは そっと 目をとじ
やさしい ゆめのなかへ かえっていきました。
あなたの てのひらには
まだ ひかりのつぶが ひとつ
そっと のこっているかもしれません。

しずかな しずかな まよなかです。
まちの みんなが 眠っているころ
ひとつの 大きな まどが
そっと ひらきました。
そこは いつもは かぎのかかった 植物園。
でも 夜になると
とくべつな とびらが あらわれるのです。

「おかえりなさい」
「きょうも おつかれさまでした」

だれかの 声のような やさしい風が
あなたを 植物園の なかへと みちびきます。

ふみしめた みちは
しっとりと やわらかく
ほこりのような やみが
すこしずつ あしもとに しずんでいきます。
そのたびに 植物たちは
そっと 目をひらいて
あなたを みつめます。

ぱちり

とげのある サボテンが くしゃみをして
つんとした みどりの においが ひろがります。
するすると からだを のばす つるのくさ
あかりのように ぽつぽつ ひかる 花の つぼみたち
眠っていた 植物園が
すこしずつ めざめていくのです。

この 植物園に あるのは
にちじょうの 植物とは ちがうものばかり。
たとえば
おとの花。
ひらくと やわらかい ピアノのような 声で
「おやすみなさい」と ささやきます。
においの木は
きょうの あなたの きもちに あわせて
すきな においに かわります。
あたらしい せっけんのにおい
ぬれた ほんの におい
こどものころの まくらの におい
それは どれも
あなたの なかの とても ふるい 記憶です。

ひかりの つぶを まいてあるくのは
ナイトペッパーという 草の なかまたち。
こそこそ はなしながら
だれかの かたすみに ひかりを さしこみます。

「このひとは さみしかったんだよ」
「でも まだ きづいてないだけ」
「きづいたとき わたしたちが そこにいられるように」

ナイトペッパーたちは とても しんせつで
とても ひつような 植物です。

ふと たちどまると
やわらかい しろい ひかりに てらされた
いっぽんの 木。
ゆめつなぎの木と よばれる
とても とても ふるい 植物です。
この 木は だれかの みた ゆめを
すこしだけ のこしてくれます。

「きょうの あなたは
うみのそばの ながいベンチで
やすんでいました」
「きょうの あなたは
ひかりのトンネルを ぬけたさきで
だれかに 手をふっていました」

そんなふうに
ゆめつなぎの木は やさしく ゆめのかけらを
とどけてくれるのです。
そして そのたびに
あなたの こころの ふかいところで
なにかが そっと ほどけていきます。

植物園の いちばん おくにある
小さな いすに すわると
うえから 音のように
ひかりのはなびらが おちてきます。
なにかを きれいに あらいながしてくれるような
ふしぎな ひととき。
きっと あなたも しらないうちに
いくつかの なみだが
ここに おちているかもしれません。
でも だいじょうぶ。
この植物園は
なくなった なみだの かずだけ
しずかに やさしく 花を さかせるのです。

やがて しずかに
あさの きざしが やってきます。
植物たちは すこしずつ
また ねむりのなかへ もどっていきます。

「また きてね」
「こんやも ちゃんと ねむれますように」

そんな 声のような かぜが
あなたの まどを とおりすぎていきます。
ひかりが すこしずつ にじむころ
植物たちは そっと 目をとじ
やさしい ゆめのなかへ かえっていきました。
あなたの てのひらには
まだ ひかりのつぶが ひとつ
そっと のこっているかもしれません。