しずかな森の とけい屋

とても静かな森があります。
風の音も 小鳥の声も 水のしずくも
どれも とてもやわらかくて
気づかなければ 聞き逃してしまうような森です。

森のいちばん奥に とけい屋さんがありました。
お店の前には 小さな池と石の道。
屋根の上では ふくろうが時々まばたきをしています。
とけい屋をやっているのは 年をとったキツネでした。
うす茶色の毛に 銀色のしっぽ。
メガネはかけていませんが 目はよく見えているようです。

お店の中には いろんなとけいが並んでいます。
まるいとけい しかくいとけい つばさのあるとけい
なかには ぜんぜん時をしらせないとけいもあります。
それでも キツネはまいにち ひとつひとつに手をかけて ねじをまきます。
この店のとけいたちは 森の時間を合わせるために動いているのです。

ある日のこと リスがあわててやってきました。
「たいへんです 北の森で時間がずれてます!」
キツネはうなずいて 小さなとけいをひとつ 布につつみました。
それは 北の森専用の時間とけいです。
リスはそれを背負い 木の上をぴょんぴょん伝って また走っていきました。

こんどは カメがゆっくり歩いてきました。
「キツネさん ぼくのうちのそばで とけい草がまいにち早く咲くんです」
キツネは少し考えて すこしだけおそく進むとけいをカメに渡しました。
「このとけいといっしょに置いてごらんなさい。草の咲く時間がぴたりと合いますよ」
カメは とけいを背中にのせて ゆっくり歩いて帰っていきました。

ある晩 風がつよく吹いた夜 店のとけいがひとつ ふしぎな音を立てました。
キツネはその音を聞いて 棚の奥から古い箱を取り出しました。
中には まだ一度も使われていない とても古くて黒いとけいが入っていました。
キツネは そのとけいを屋根の上にあるふくろうの台座にそっと置きました。
「これで 夜の風もわかりやすくなるだろう」
ふくろうは ひとつまばたきをして とけいの針を見つめました。

次の朝 森はとても静かでした。
とけい草はちょうどの時間に咲き
北の森では 朝と夜がいつもどおりにやってきました。
池の水はきらきらして 風もおだやかでした。
キツネはいつものように 棚のとけいをひとつずつ見てまわりました。
どのとけいも 正しい時間を指していました。
でも キツネはときどき それとはべつの時間を感じることがあります。
それは 森の生きものたちが来て
なにかをもっていったり なにかを置いていったりする時間です。
その時間のことは とけいには書かれていません。

キツネは 自分のしっぽの先をふわりとゆらして
棚のいちばん上のとけいを すこしだけ手でととのえました。
そして ドアのかぎをあけました。
今日も 森の時間がはじまるのです。

とても静かな森があります。
風の音も 小鳥の声も 水のしずくも
どれも とてもやわらかくて
気づかなければ 聞き逃してしまうような森です。

森のいちばん奥に とけい屋さんがありました。
お店の前には 小さな池と石の道。
屋根の上では
ふくろうが時々まばたきをしています。
とけい屋をやっているのは
年をとったキツネでした。
うす茶色の毛に 銀色のしっぽ。
メガネはかけていませんが
目はよく見えているようです。

お店の中には いろんなとけいが並んでいます。
まるいとけい
しかくいとけい
つばさのあるとけい
なかには
ぜんぜん時をしらせないとけいもあります。
それでも キツネはまいにち
ひとつひとつに手をかけて ねじをまきます。
この店のとけいたちは
森の時間を合わせるために動いているのです。

ある日のこと
リスがあわててやってきました。
「たいへんです 北の森で時間がずれてます!」
キツネはうなずいて
小さなとけいをひとつ 布につつみました。
それは 北の森専用の時間とけいです。
リスはそれを背負い 木の上をぴょんぴょん伝って
また走っていきました。

こんどは
カメがゆっくり歩いてきました。
「キツネさん ぼくのうちのそばで
とけい草がまいにち早く咲くんです」
キツネは少し考えて
すこしだけおそく進むとけいをカメに渡しました。
「このとけいといっしょに置いてごらんなさい。
草の咲く時間がぴたりと合いますよ」
カメは とけいを背中にのせて
ゆっくり歩いて帰っていきました。

ある晩 風がつよく吹いた夜
店のとけいがひとつ
ふしぎな音を立てました。
キツネはその音を聞いて
棚の奥から古い箱を取り出しました。
中には まだ一度も使われていない
とても古くて黒いとけいが入っていました。
キツネは そのとけいを
屋根の上にあるふくろうの台座に
そっと置きました。
「これで 夜の風もわかりやすくなるだろう」
ふくろうは ひとつまばたきをして
とけいの針を見つめました。

次の朝 森はとても静かでした。
とけい草はちょうどの時間に咲き
北の森では
朝と夜がいつもどおりにやってきました。
池の水はきらきらして 風もおだやかでした。
キツネはいつものように
棚のとけいをひとつずつ見てまわりました。
どのとけいも 正しい時間を指していました。
でも キツネはときどき
それとはべつの時間を感じることがあります。
それは 森の生きものたちが来て
なにかをもっていったり
なにかを置いていったりする時間です。
その時間のことは
とけいには書かれていません。

キツネは
自分のしっぽの先をふわりとゆらして
棚のいちばん上のとけいを
すこしだけ手でととのえました。
そして ドアのかぎをあけました。
今日も 森の時間がはじまるのです。