
あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。
そのよるの空は すこし とくべつでした。
くもが ひとつもなくて
ほしたちは おしゃべりしているように
ちかちかと ひかっていました。
クークは まどをふきながら
「きょうは だれか くるかなあ」
と つぶやきました。
すると
とん とん とん
おみせのドアが ゆっくり たたかれました。
ドアのそとに たっていたのは
しろくて ほそながい ヤギでした。
おおきな マントを からだにまいて
しずかに たっていました。
「こんばんは」
「こんばんは」
クークが あいさつすると
ヤギは すこしだけ うつむきながら いいました。
「ここが……うわさの スープやさん?」
「そうだよ」
クークは にっこりして ドアをひらきました。
「どうぞ あたたまっていって」
ヤギは ていねいに くつをぬいで
おみせに はいりました。
ながい しろいまつげが やわらかく うごいています。
「わたし、しばらく うたをうたってたの」
「うた?」
「よぞらで。ひとりで、ね。
だけど あるひ こえがでなくなって」
「……」
「それから ねむるのも すこし むずかしくなってしまったの」
クークは うなずきました。
「じゃあ……“こえがのこるスープ”を つくってみようか」
ヤギは すこしだけ 目をみはりました。
「そんなスープ あるの?」
「あるよ。ちゃんと、ね」
クークは おなべに お水をいれながら こたえました。
くつくつ
ぽこぽこ
おなべのなかに いれたのは
こまかくきった にんじんと やわらかいかぶ
うすいレモンバームと ほそくきざんだ パクチー
それから すこしの はちみつと
とろける やぎミルクを しずかに まぜこみます。
おなべの上には やさしいあまいにおいが ふんわりとのぼって
まどのガラスが すこしだけ くもりました。
「できたよ」
クークが あたたかいスープを そっとテーブルにおくと
ヤギは ふわっとした目で それをながめました。
「……いただきます」
スプーンで すくって
ゆっくり ひとくち
「……あっ」
ヤギは 目をとじて
すこしだけ くびをふりました。
「ことばじゃないの、これ」
「うん」
クークが うなずきます
「うたう まえの まばたき
こえを だす まえの くちびる
それが からだのなかで
もとにもどっていくようなかんじ」
スープは ゆっくり ヤギのなかで ひろがって
やがて ほそい まつげも まぶたのうえで とじていきました。
クークは あたたかい毛布を そっと そばにおいて
やぎのマントを なおしてあげました。
そのあと、ヤギは おみせのすみで
しずかに まどのそとを ながめながら
すこしずつ ねむっていきました。
クークは ハーブティーを ひとくちだけのみながら
おなべを あらいおわって
まどごしに やぎの すやすやを ちらりとみました。
「こえが もどってくるといいね」
おみせのまわりには
よぞらのほしが やさしく またたいています。
その ひかりのなかで
クークは やさしく めをとじました。
「いいゆめが みられますように」

あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。
そのよるの空は すこし とくべつでした。
くもが ひとつもなくて
ほしたちは おしゃべりしているように
ちかちかと ひかっていました。
クークは まどをふきながら
「きょうは だれか くるかなあ」
と つぶやきました。
すると
とん とん とん
おみせのドアが ゆっくり たたかれました。
ドアのそとに たっていたのは
しろくて ほそながい ヤギでした。
おおきな マントを からだにまいて
しずかに たっていました。
「こんばんは」
「こんばんは」
クークが あいさつすると
ヤギは すこしだけ うつむきながら
いいました。
「ここが……うわさの スープやさん?」
「そうだよ」
クークは にっこりして ドアをひらきました。
「どうぞ あたたまっていって」
ヤギは ていねいに くつをぬいで
おみせに はいりました。
ながい しろいまつげが
やわらかく うごいています。
「わたし、しばらく うたをうたってたの」
「うた?」
「よぞらで。ひとりで、ね。
だけど あるひ こえがでなくなって」
「……」
「それから ねむるのも
すこし むずかしくなってしまったの」
クークは うなずきました。
「じゃあ……
“こえがのこるスープ”を つくってみようか」
ヤギは すこしだけ 目をみはりました。
「そんなスープ あるの?」
「あるよ。ちゃんと、ね」
クークは おなべに お水をいれながら
こたえました。
くつくつ
ぽこぽこ
おなべのなかに いれたのは
こまかくきった にんじんと やわらかいかぶ
うすいレモンバームと ほそくきざんだ パクチー
それから すこしの はちみつと
とろける やぎミルクを しずかに まぜこみます。
おなべの上には
やさしいあまいにおいが ふんわりとのぼって
まどのガラスが すこしだけ くもりました。
「できたよ」
クークが
あたたかいスープを そっとテーブルにおくと
ヤギは ふわっとした目で それをながめました。
「……いただきます」
スプーンで すくって
ゆっくり ひとくち
「……あっ」
ヤギは 目をとじて
すこしだけ くびをふりました。
「ことばじゃないの、これ」
「うん」
クークが うなずきます
「うたう まえの まばたき
こえを だす まえの くちびる
それが からだのなかで
もとにもどっていくようなかんじ」
スープは ゆっくり
ヤギのなかで ひろがって
やがて ほそい まつげも
まぶたのうえで とじていきました。
クークは あたたかい毛布を
そっと そばにおいて
やぎのマントを なおしてあげました。
そのあと、ヤギは おみせのすみで
しずかに まどのそとを ながめながら
すこしずつ ねむっていきました。
クークは
ハーブティーを ひとくちだけのみながら
おなべを あらいおわって
まどごしに やぎの すやすやを
ちらりとみました。
「こえが もどってくるといいね」
おみせのまわりには
よぞらのほしが やさしく またたいています。
その ひかりのなかで
クークは やさしく めをとじました。
「いいゆめが みられますように」

