
あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。
そのよる クークは
おみせのカウンターに すわって
つめたい ほしの音を 耳でたしかめていました。
カタ…コト…
とても かすかに でも ちゃんと きこえる音が
ドアの上から おちてきました。
みあげてみると
ガラスの上に そっと とまっている
ちいさなチョウが いました。
まいごのようすでもなく
とくべつ たずねてきたようすでもなく
でも たしかにそこにいて
ガラスごしに クークのほうを みていました。
「こんばんは」
クークが ゆびさきで ドアをあけると
チョウは ひらひらと はいってきて
テーブルの上の スプーンにとまりました。
「ねむれないの?」
クークがきくと
チョウは すこしだけ つばさをふるわせました。
「たぶん……ねむろうと してないの」
クークは ちいさく うなずきました。
「じゃあ、“とまるスープ”が いいかもしれないね」
チョウは すこしだけ かたむいて
「とまるスープって?」と たずねました。
「とぶのを やめたあと
つぎ とびたつまえまでの
あいだの スープだよ」
くつくつ
ぽこぽこ
クークが おなべにいれたのは
あまい たまねぎと くるみのすりつぶし。
それから つぼみのままの ブロッコリーをすこし
ちいさなカップに ひとしずくの 花のはちみつ
それを あわせて とろりとした スープができあがりました。
「どうぞ」
クークが ちいさな うつわを テーブルにおくと
チョウは ふわりと うつくしい音をたてて そこにとまりました。
「とびつづけるのって たいへんじゃない?」
クークが ぽつりと きくと
チョウは うすく わらったように こたえました。
「そうかも。
だけど とんでるあいだって
ほんとうは どこかに とまろうとしてるのかもね」
チョウは スープを すこしずつ のみました。
とっても ちいさな のみかたでした。
でも たしかに
あたたかいものが からだのなかに しみこんでいって
つばさが すこしだけ おちついたようにみえました。
「……ね、クーク」
「うん?」
「とまってるときって
じぶんが だれだったか ちょっと おもいだせるよね」
「うん」
クークは うなずきました。
「そして それだけで ねむくなることも あるんだよ」
チョウは しばらく じっとしていました。
スープを ぜんぶ のみおえてからも
しずかに そのばに とまっていました。
クークは ランプをすこし おとして
そっと ささやくように いいました。
「つぎ とぶときまで
このまま とまってて いいからね」
そのよる チョウは
とびたつことなく
つばさを ふんわりたたんで
まどべのすみに よりそっていました。
クークは おなべをあらいながら
ちいさく つぶやきました。
「とまるって きっと
だれかに まかせるってことなのかもね」
まどのそとには
かぜも ほしも うごいていましたが
チョウのまわりだけが そっと とまっていました。
クークは その しずけさのなかで
ランプのあかりを ひとつ けしました。
「いいゆめが みられますように」

あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。
そのよる クークは
おみせのカウンターに すわって
つめたい ほしの音を 耳でたしかめていました。
カタ…コト…
とても かすかに でも ちゃんと きこえる音が
ドアの上から おちてきました。
みあげてみると
ガラスの上に そっと とまっている
ちいさなチョウが いました。
まいごのようすでもなく
とくべつ たずねてきたようすでもなく
でも たしかにそこにいて
ガラスごしに クークのほうを みていました。
「こんばんは」
クークが ゆびさきで ドアをあけると
チョウは ひらひらと はいってきて
テーブルの上の スプーンにとまりました。
「ねむれないの?」
クークがきくと
チョウは すこしだけ つばさをふるわせました。
「たぶん……ねむろうと してないの」
クークは ちいさく うなずきました。
「じゃあ、“とまるスープ”が いいかもしれないね」
チョウは すこしだけ かたむいて
「とまるスープって?」と たずねました。
「とぶのを やめたあと
つぎ とびたつまえまでの
あいだの スープだよ」
くつくつ
ぽこぽこ
クークが おなべにいれたのは
あまい たまねぎと くるみのすりつぶし。
それから つぼみのままの ブロッコリーをすこし
ちいさなカップに ひとしずくの 花のはちみつ
それを あわせて
とろりとした スープができあがりました。
「どうぞ」
クークが ちいさな うつわを
テーブルにおくと
チョウは ふわりと うつくしい音をたてて
そこにとまりました。
「とびつづけるのって たいへんじゃない?」
クークが ぽつりと きくと
チョウは うすく わらったように こたえました。
「そうかも。
だけど とんでるあいだって
ほんとうは どこかに とまろうとしてるのかもね」
チョウは スープを すこしずつ のみました。
とっても ちいさな のみかたでした。
でも たしかに
あたたかいものが
からだのなかに しみこんでいって
つばさが すこしだけ
おちついたようにみえました。
「……ね、クーク」
「うん?」
「とまってるときって
じぶんが だれだったか
ちょっと おもいだせるよね」
「うん」
クークは うなずきました。
「そして
それだけで ねむくなることも あるんだよ」
チョウは しばらく じっとしていました。
スープを ぜんぶ のみおえてからも
しずかに そのばに とまっていました。
クークは ランプをすこし おとして
そっと ささやくように いいました。
「つぎ とぶときまで
このまま とまってて いいからね」
そのよる チョウは
とびたつことなく
つばさを ふんわりたたんで
まどべのすみに よりそっていました。
クークは おなべをあらいながら
ちいさく つぶやきました。
「とまるって きっと
だれかに まかせるってことなのかもね」
まどのそとには
かぜも ほしも うごいていましたが
チョウのまわりだけが そっと とまっていました。
クークは その しずけさのなかで
ランプのあかりを ひとつ けしました。
「いいゆめが みられますように」

