たたまれたままの よる

たたまれた ままの よるが
ひとつ、そっと おかれていました。
それは まるで
だれかが つかいわすれた ハンカチのように
きちんと すみまで おられていて
うすい よるのいろをした ぬのが
しずかに たたまれていたのです。

よるには ふたつ 種類があります。
ひとつは
きちんと ひろげられた よる。
ねむりが そっと かさなって
まくらのうえで ゆっくり ほどけていくような
そういう よるです。

もうひとつは
たたまれたままの よる。
それは だれかが とくに つかうこともなく
そのまま そっと のこされた よるのきれはし。
とけこむことも
おとずれることも ないまま
うすくて かるい ぬののように
ちいさな すきまに おかれているのです。

そのよるは
ある晩 あなたの 肩のうえに
ふわりと おちてきました。
おちてきたのに おどろかないのは
それが とても しずかで
すこし ひんやりと やさしかったからです。

あなたは そのよるを
そっと ひろげてみました。
ぬののような よるは
ゆっくり のびていって
肩や うでや まぶたを やさしく つつみました。

そこには なにも おしゃべりはありません。
ひかりも
こえも
おとすら ありません。
ただ たたまれたままの よるが
ひろがっているだけ。

でも その なにもないなかに
あなたは すこしだけ なにかを おもいだすのです。
はるか まえに おちた ことば
どこにも つかえなかった うたのはしっこ
だれかが わすれたままの ためいきのかたち。

よるは それを ひろいあげたり しません。
ただ いっしょに そこに いて
ひろげられた ぬののうえで
そっと ゆれているだけです。

やがて
あさが すこしずつ ちかづいてくると
そのぬのは ふわりと うごいて
また もとのかたちに たたまれていきます。

そして あさのすみっこに
すこしだけ のこしていくのです。
しんとした あたまのなか
ちょっと からだが かるくなった きもち
つよくも よわくもない そのままの じぶん。

でも それも
だれにも きづかれないまま
すこし すぎていきます。

たたまれたままの よるは
また どこかの すみっこで
そっと まっているでしょう。
ひとが なにかを おとしたとき
まだ それを ことばに できないとき
ふわりと おちてきて
そっと やさしく つつんでくれるでしょう。

たたまれた ままの よるが
ひとつ、そっと おかれていました。
それは まるで
だれかが つかいわすれた
ハンカチのように
きちんと すみまで おられていて
うすい よるのいろをした ぬのが
しずかに たたまれていたのです。

よるには ふたつ 種類があります。
ひとつは
きちんと ひろげられた よる。
ねむりが そっと かさなって
まくらのうえで
ゆっくり ほどけていくような
そういう よるです。

もうひとつは
たたまれたままの よる。
それは だれかが とくに つかうこともなく
そのまま そっと のこされた
よるのきれはし。
とけこむことも
おとずれることも ないまま
うすくて かるい ぬののように
ちいさな すきまに おかれているのです。

そのよるは
ある晩 あなたの 肩のうえに
ふわりと おちてきました。
おちてきたのに おどろかないのは
それが とても しずかで
すこし ひんやりと やさしかったからです。

あなたは そのよるを
そっと ひろげてみました。
ぬののような よるは
ゆっくり のびていって
肩や うでや まぶたを
やさしく つつみました。

そこには なにも
おしゃべりはありません。
ひかりも
こえも
おとすら ありません。
ただ たたまれたままの よるが
ひろがっているだけ。

でも その なにもないなかに
あなたは すこしだけ
なにかを おもいだすのです。
はるか まえに おちた ことば
どこにも つかえなかった うたのはしっこ
だれかが わすれたままの ためいきのかたち。

よるは それを ひろいあげたり しません。
ただ いっしょに そこに いて
ひろげられた ぬののうえで
そっと ゆれているだけです。

やがて
あさが すこしずつ ちかづいてくると
そのぬのは ふわりと うごいて
また もとのかたちに たたまれていきます。

そして あさのすみっこに
すこしだけ のこしていくのです。
しんとした あたまのなか
ちょっと からだが かるくなった きもち
つよくも よわくもない そのままの じぶん。

でも それも
だれにも きづかれないまま
すこし すぎていきます。

たたまれたままの よるは
また どこかの すみっこで
そっと まっているでしょう。
ひとが なにかを おとしたとき
まだ それを ことばに できないとき
ふわりと おちてきて
そっと やさしく つつんでくれるでしょう。