ほしのスープやさん

あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは　山の上にあります。
まわりには　ほしが　いっぱい。
とても　しずかな　ところです。
おみせの　なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい　ふくをきた
くまの　クーク。
おきゃくさんは
ねむれない　どうぶつたちです。

あるよるのことです。
ぴょこん、と
まどのそとに　うさぎが　あらわれました。
「こんばんは」
「いらっしゃい」
クークは、ドアをあけて
やさしく　うさぎを　むかえました。
「ねむれないの」
うさぎは　ちいさな声で　いいました。
「おなかは　すいていないけど
なんだか　さみしくて」
クークは　にっこり　わらいました。
「じゃあ、“おもいでのスープ”が　いいかな」

くつくつ
ぽこぽこ
おなべのなかで
やさいが　ゆれます。
にんじん
じゃがいも
ゆうやけのいろの　トマト。
さいごに　やさしいあじの
はちみつを　ちょっぴり。
「どうぞ」
クークは　あたたかい　スープを
そっと　テーブルに　おきました。
うさぎは　ゆっくり
スプーンを　くちに　はこびます。

「あ…これ　しってる」
うさぎは　目を　ほそめました。
「ちいさいころに
おかあさんが　つくってくれたスープと
おなじ　におい」
クークは　うなずきました。
「だいじな　おもいでは
こころのなかに　ずっと　いるからね
すこし　あたためてあげれば
ちゃんと　かえってくるんだよ」
うさぎは　もう　なにも　いわずに
あたたかいスープを　ぜんぶ　のみました。
「ありがとう」
やさしい声で　そういって
ふわりと　おみせを　あとにしました。

そのあとも
こねこや　ふくろうや　きつねがやってきて
クークは　それぞれに　ぴったりのスープを　つくりました。
スープのにおいと
ランプのあかりと
やさしい　クークの声と。
そして　ねむりへ　つづく　やわらかな時間が
「ほしのスープやさん」には　ありました。
クークは　まどのそとを　ながめながら
きょうも　そっと　つぶやきます。
「いいゆめが　みられますように」