ほしのスープやさんと なきむしとかげ

あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。

あるよるのことです。
ぽとっ ぽとっ と
おみせのドアに しずかな音がしました。
クークが ドアをあけると
そこには
すこしだけ 目をはらした とかげが たっていました。

「こんばんは」
「……こんばんは」
クークは やさしく ドアをあけました。
「どうしたの?」
「……ちょっとだけ ないちゃった」
とかげは はずかしそうに こたえました。

「ないてたら すこし さむくなっちゃって」
「じゃあ、“ぽとぽとスープ”が いいかもね」
クークは にこっとして
おおきな おなべを あたためはじめました。

くつくつ
ぽとぽと
おなべのなかに
ちいさくきった しめじ
やわらかくした だいこん
しょっぱいなみだみたいな しおを ほんのすこし。
そこに とろりとした おもちのきれはしと
うすあまい ゆずのかわを うかべて。

「できたよ」
クークは そっと スープを テーブルにおきました。
とかげは あたたかいおわんを
おなかのところで ぎゅっと だいてから
すこしずつ のみはじめました。

「……これ、あったかいってより “やさしい”だ」
クークは すこしだけ 目をほそめました。
「やさしいあじはね
ときどき なみだと にてるんだよ」

とかげは すこし わらって
また ゆっくり ひとくち のみました。
なみだのあとに あったかいものが はいってくると
からだのなかが しずかになっていく。
そんなふうに かんじたのかもしれません。

スープを のこらずのんで
とかげは ほうっと いきをはきました。
「ないたことって のこってるようで なくなってるようで
……ふしぎだね」

クークは うなずきました。
「スープもね
さっきまで おなべに あったのに
いまは からだのなかで やすんでる。
なみだも きっと そんなかんじなのかも」

とかげは すこしだけ うなずいて
クークに ありがとうを いいました。
そして ドアのところで ふりかえって
「また なきたくなったら きてもいい?」
と ききました。
「もちろん」
クークは やさしく こたえました。

クークは まどのそとを みあげて
また ひとつ おなべを あたためながら
そっと つぶやきました。
「いいゆめが みられますように」

あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。

あるよるのことです。
ぽとっ ぽとっ と
おみせのドアに しずかな音がしました。
クークが ドアをあけると
そこには
すこしだけ 目をはらした とかげが
たっていました。

「こんばんは」
「……こんばんは」
クークは やさしく ドアをあけました。
「どうしたの?」
「……ちょっとだけ ないちゃった」
とかげは はずかしそうに こたえました。

「ないてたら すこし さむくなっちゃって」
「じゃあ、“ぽとぽとスープ”が いいかもね」
クークは にこっとして
おおきな おなべを あたためはじめました。

くつくつ
ぽとぽと
おなべのなかに
ちいさくきった しめじ
やわらかくした だいこん
しょっぱいなみだみたいな しおを
ほんのすこし。
そこに とろりとした おもちのきれはしと
うすあまい ゆずのかわを うかべて。

「できたよ」
クークは そっと
スープを テーブルにおきました。
とかげは あたたかいおわんを
おなかのところで ぎゅっと だいてから
すこしずつ のみはじめました。

「……これ、あったかいってより “やさしい”だ」
クークは すこしだけ 目をほそめました。
「やさしいあじはね
ときどき なみだと にてるんだよ」

とかげは すこし わらって
また ゆっくり ひとくち のみました。
なみだのあとに
あったかいものが はいってくると
からだのなかが しずかになっていく。
そんなふうに かんじたのかもしれません。

スープを のこらずのんで
とかげは ほうっと いきをはきました。
「ないたことって
のこってるようで なくなってるようで
……ふしぎだね」

クークは うなずきました。
「スープもね
さっきまで おなべに あったのに
いまは からだのなかで やすんでる。
なみだも きっと そんなかんじなのかも」

とかげは すこしだけ うなずいて
クークに ありがとうを いいました。
そして ドアのところで ふりかえって
「また なきたくなったら きてもいい?」
と ききました。
「もちろん」
クークは やさしく こたえました。

クークは まどのそとを みあげて
また ひとつ おなべを あたためながら
そっと つぶやきました。
「いいゆめが みられますように」