ほしのスープやさんと ことりのうた

あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。

そのよるの山は
いつもより すこし ひんやりとしていて
木のあいだから 風が やさしく ぬけていきました。
クークは おみせのまどを あけたまま
ゆっくりと おなべのなかを まぜていました。
そのとき
どこからともなく ちいさな うたが きこえてきました。

「チチ…チチチ…」
「チ…」
それは ちいさな ことりのうたごえでした。
すこしつかれたような
すこし なつかしそうな
まるくて こわれそうな こえ。

まどのそとには
ふわふわの ことりが ひとり
てすりの上に とまっていました。
クークが そっと ドアをあけると
ことりは とことこ はいってきました。

「こんばんは」
「こんばんは」
クークが 声をかけると
ことりは すこしだけ あたまをさげました。
「ねむれないの?」
「……うたが とまっちゃって」

「とまったの?」
「うん。なんでもないことで
ことばが でてこなくなるときが あるの」
「うん」
「だけど それでも なにかが のこってるきがして」
「わかるよ」
クークは おなべの火を すこしだけ つよくしました。
「じゃあ、“のこりのおとスープ”を つくろうね」

くつくつ
ぽこぽこ
おなべのなかには
かるくいためた やまのハーブと
みじんぎりの ほうれんそう
やさしいにおいの ゆでたまご。
ふんわりと かきまぜたら
すこしだけ レモンのしるを たらして
まるい ミルクのあじに ととのえていきます。

おなべから たちのぼるにおいは
どこか とおくからきこえる
うたのように やさしくて
すぐには なまえがつけられないような ものでした。

「できたよ」
クークが ちいさなおさらを
ことりのまえに そっと おきました。
ことりは スプーンではなく
くちばしで ちょん ちょん と
ほんのすこしずつ スープを くちにふくみました。

「……あ」
ことりは ひとつだけ 声をこぼしました
「なんだか……うたのつづきが
こころのどこかで うたってるみたい」

クークは うなずきました。
「きっとね、うたって とまっても
音が なかに のこってる。
すこし しずかになってるだけで
ほんとは ずっと そこにいるのかもしれないね」

ことりは 目をとじて
しばらく じっと していました。
ときどき 声にならない
うすい はねの音だけが
しずかに おみせに ひろがっていきました。

やがて ことりは
まどべのすみにある クッションの上に
ちいさく うずくまりました。
クークは ランプのあかりを すこしだけおとして
そっと つぶやきました。
「そのまま ねむっていいよ
のこってる音は ゆめのなかで
また うたになるからね」

そのよる、クークは
おなべをあらいながら ふと
ふるい ふるい うたのメロディーを
くちずさみました。
それは ことりが のこしていった
ちいさなうたの ひとかけらのようでした。

まどのそとでは
とおくのほしが ふたつ
やさしく よりそって ひかっています。

クークは そのひかりを みつめながら
そっと つぶやきました。
「いいゆめが みられますように」

あるところに
ちいさなスープやさんがありました。
おみせは 山の上にあります。
まわりには ほしが いっぱい。
とても しずかな ところです。
おみせの なまえは
「ほしのスープやさん」
おみせをしているのは
しろい ふくをきた
くまの クーク。
おきゃくさんは
ねむれない どうぶつたちです。

そのよるの山は
いつもより すこし ひんやりとしていて
木のあいだから
風が やさしく ぬけていきました。
クークは おみせのまどを あけたまま
ゆっくりと おなべのなかを まぜていました。
そのとき
どこからともなく
ちいさな うたが きこえてきました。

「チチ…チチチ…」
「チ…」
それは ちいさな ことりのうたごえでした。
すこしつかれたような
すこし なつかしそうな
まるくて こわれそうな こえ。

まどのそとには
ふわふわの ことりが ひとり
てすりの上に とまっていました。
クークが そっと ドアをあけると
ことりは とことこ はいってきました。

「こんばんは」
「こんばんは」
クークが 声をかけると
ことりは すこしだけ あたまをさげました。
「ねむれないの?」
「……うたが とまっちゃって」

「とまったの?」
「うん。なんでもないことで
ことばが でてこなくなるときが あるの」
「うん」
「だけど それでも
なにかが のこってるきがして」
「わかるよ」
クークは おなべの火を
すこしだけ つよくしました。
「じゃあ、“のこりのおとスープ”を つくろうね」

くつくつ
ぽこぽこ
おなべのなかには
かるくいためた やまのハーブと
みじんぎりの ほうれんそう
やさしいにおいの ゆでたまご。
ふんわりと かきまぜたら
すこしだけ レモンのしるを たらして
まるい ミルクのあじに ととのえていきます。

おなべから たちのぼるにおいは
どこか とおくからきこえる
うたのように やさしくて
すぐには なまえがつけられないような
ものでした。

「できたよ」
クークが ちいさなおさらを
ことりのまえに そっと おきました。
ことりは スプーンではなく
くちばしで ちょん ちょん と
ほんのすこしずつ
スープを くちにふくみました。

「……あ」
ことりは ひとつだけ 声をこぼしました
「なんだか……うたのつづきが
こころのどこかで うたってるみたい」

クークは うなずきました。
「きっとね、うたって とまっても
音が なかに のこってる。
すこし しずかになってるだけで
ほんとは ずっと そこにいるのかもしれないね」

ことりは 目をとじて
しばらく じっと していました。
ときどき 声にならない
うすい はねの音だけが
しずかに おみせに ひろがっていきました。

やがて ことりは
まどべのすみにある クッションの上に
ちいさく うずくまりました。
クークは ランプのあかりを すこしだけおとして
そっと つぶやきました。
「そのまま ねむっていいよ
のこってる音は ゆめのなかで
また うたになるからね」

そのよる、クークは
おなべをあらいながら ふと
ふるい ふるい うたのメロディーを
くちずさみました。
それは ことりが のこしていった
ちいさなうたの ひとかけらのようでした。

まどのそとでは
とおくのほしが ふたつ
やさしく よりそって ひかっています。

クークは そのひかりを みつめながら
そっと つぶやきました。
「いいゆめが みられますように」